
川蝉・翡翠 かわせみ |
毎朝のコースで最も美しいところは都立S公園である。約5万坪の中心に大小の池がある。一周する自然道の半分は歩きやすい木道がある。人間が歩く道で、これほどここちよい道はない。池には、かるがもが50羽以上、白鳥が10羽以上いる。時折水じぶきの音を立てるのは大きな鯉の群れである。
この池には100匹以上の鯉が棲息している。エサをまけば間違いなく押し寄せてくる。白い鯉、金色の鯉もいる。油断のならないご時世なので、網を持って獲りにくる者もいる。早朝、小学生や高校生が道具をそろえて池の淵に立っていたことがあった。これは写真に撮ってある。だが、誰かがすぐ通報するという土地柄である。
管理する東京都の職員は姿をみせないが毎朝未明から訪れている地元の住民がいる。公園をわが家の庭だと思う人達の目立たない監視体制が何となく出来上がっている。池の淵には湧水の噴出し口がある。この一体が昔から湧水地の多いところであった。また小さく突き出た御堂の背後には、室町時代、太田道灌に攻められて落城したS城跡の丘陵がある。歴史深いところである。
最近、木道沿いの小池に望遠レンズをかまえているカメラマニア(プロ?)が2,3人いた。毎朝7時頃からじっとかまえているので何事かと思い「何かめずらしいものでもあるのですか?」と質問すると「かわせみ、です」と答えてくれた。テレビ時代劇「御宿かわせみ」を観たことはある。しかし「かわせみ」はどんな鳥か知らない。その日から、ここを通過するときは5分ほど立ち止まって眺めることにした。すると、10日ほど過ぎた頃、うわさの「かわせみ」が池の真ん中に突き出る折れ木に止まっている実物を発見した。残念なことに、こんな時に限ってカメラを持ってない。むむ。しかしメタリックに鮮やかな蒼い鳥の姿を拝むことができたことは幸いであった。
この公園のいちばん奥の通路前で毎朝、合唱している高齢者グループがある。携帯ラジオ付きカセットデッキにカラオケテープをセットして懐メロを中心に大きな声を出しているが、みんななかなか上手である。そのグループが正月の約1週間、歌をやめて、展示会を開設した。およそ50メートルのロープを張り、ずらりと写真をぶら下げた。その写真はS公園の美しい光景が約3分の1ある。あとは新潟など地方都市の田舎の風景が多かった。
私好みの写真が多かったこともある。ついつい見入ってしまい、案内役のような60歳すぎの婦人に質問した。ところが今後何の役に立つかも知れないと、連絡先を聞くあたりから、彼女の態度が険悪になってきた。何を調べているのか、といいたげな警戒の目を向けてきたのである。すかさず私は個人の名刺を渡した。写真撮影者の男性は70歳。住所、電話番号をなかなか教えてもらえなかった。何だか妙なことになった。間もなく私はその場を離れた。
続く |