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12月のはじめ。街は肌寒く師走のあわただしさをみせはじめていた。それでも日曜日の朝になると駅周辺の人出は少ない。駅横の踏み切りを越えて、いつものように歩いていた。
神社の前を通りすぎる時だ。スピーカーとマイクで「いらっしゃいませ」と半纏着で鉢巻きの青年が呼びかけている。ふと見ると朝市の看板が立っていた。
テレビの「チイ散歩」よろしく、その境内へ入った。まずS信用金庫のコーナーで熱い紅茶の無料提供をうける。反対側では1個100円で揚げたてのコロッケを売っている。寒い朝だ。紅茶を飲み終えたあとコロッケを1個食べた。立ち食いはおいしい。コロッケのじゃが芋は北海道産だという。油はサラダ油でさっぱりしていた。
「テレビ的にいうと、口の中にとけて甘さが広がる」というと店主が「うまいこというね」と笑顔を向けた。このまま帰るのも惜しい気がして少しほかの売り場をのぞいた。まだ見物人はまばらだが主催する商店会の実行委員たちが大勢いる。
ふと大きな大根が目に入った。大根はめずらしくない。しかし、こんなに逞しく大きな大根は、あまり見たことがなかった。なにより大振りな葉っぱがそっくりついている。胴まわり25センチから40センチ、長さ70センチくらいの大根には泥土がついていた。いかにも近くの畑で今朝引き抜いたばかりというみずみずしさがある。
約10本ほど無造作に積み上げられていた。できれば全部買い求めたいところだが運搬する方法がない。これが1本80円。最近野菜の相場を知り始めた私には飛び上がるほどの安値であり品質であった。なんとか1本でも買って帰りたい。みると大根のうしろに農協の肥料袋が何枚か棄ててあった。大根やカブを入れてあったようだ。横には、これもまた大きいカブが積み上げられている。
「その袋をいただけるなら、大根とカブを1本ずつほしいのですが」と声をかけると「はい、わかりました」と半纏姿の青年が丈夫な大袋をとり私が指した大根とカブを入れてくれた。合計180円を支払った。その袋を持つと50キロはあるのではないか、と思うほど重い。そうか。水分が多いのだ。水分が多い野菜はおいしいというから、これは当たりかも知れない。それから約2時間。途中で休みをとりながら、やっとの
思いで帰り着いた。途中で歩くのをやめてバスに乗ろうと思ったが…。
大根は4,5回に分け、薄味気味に醤油、昆布だしで煮てもらった。おでんのようにおいしく、生まれてはじめて味わうよろこびがあった。
妻も大満足だ。大根の葉も「葉がいいのよ」といって、みじん切り。浅漬けにした。これも青々とした味を堪能した。カブの調理は失敗したが、80円の大根は忘れられない味を与えてくれた。
続く |