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都営住宅の団地がある。 真ん中に都の河川が流れている。この川は幅約20メートルの大きなものだ。川の両脇には水面から約1メートル高さのところで5メートル幅くらいの大きな遊歩道がある。そこから約10メートルほど高いところに、さらに約1メートル幅の生活道路がある。
桜並木だから春の桜が美しいところだ。私は半年間この生活道路を通った。犬連れがいなければ、道の両側に草花が咲き季節でなくても桜の木の葉でトンネルをつくってくれる。陽射しをさえぎる。絵に描いたような散歩道である。ほぼ一直線で約800メートル。出口には歴史をたどる散歩道のコースが石版に刻まれている。7坪ほどの空き地には5分遅れの街頭時計が建っている。
朝7時50分が予定の通過時間である。その途中で仔犬を連れた若い男がいた。背が高い。おそらく180センチはあるだろう。この青年が仔犬を休憩させて道に立っていた。犬は左、男は右に立っている。リールを伸ばしたまま道をふさいでいる。また大きくまたぐことになる。他に通行人はいない。私には挑戦的な構図に見えた。
私はここ数日、何度もこれに近い状況があった。相手は中年のオッサンだったり、60代のオバサンだったりした。こちらが立ち止まっても横に寄ろうとしない。たまに「すみません」といって私を通してくれる紳士や賢夫人がいるが、そういう人の場合は、犬も自分から道をあけてくれる。つまり犬は飼い主の性格に似るのである。そんな時はこちらも「すみません」と頭を下げて通りすぎる。お互いに、これでいい気分になる。あの犬はなんて頭のよい犬なのだと感心するのである。
ところが道をふいさいだまま、平然と動かない男の場合には何か言ってやりたくなる。「通れません」と立ち尽くす。男は黙っている。「どいてくれますか」というと「何?」と反発した。そまま振り向かないで立ち去ったが、何と男が仔犬を連れたまま100メートルほど追いかけてきた。「待てよ。おい!こら!待たんか」といいながらである。まわりに人は」いない。男は私を見下ろしながらいまにも殴りかからんばかりだ。「何だ。さっきの態度は」というわけだ。喧嘩すれば不利である。私は負ける。しかしいうだけはいっておこう。その後が肝心だ。と決心して終始笑顔で答えた。年配者であることを活用した。
「私もね。面白くないことがあるよ。だからいいたいことをいう時もある。でもね。喧嘩をするつもりはない。いいすぎたのなら謝ります。ごめんなさい。今度会ったらニッコリするよ」といって手を差し出した。すると長身の男は手を出しながら「俺は若いけど。ああいわれれば面白くないよ。おたく、この近くの住人でしょ?」という。「まあ、そうだね」と応えておいたが徒歩1時間先から来たと詳しく説明することもあるまい。二人はあっけなく握手して仲直りした。
この地域を所管する警察署は事件が多く解決件数も少ない。違法逮捕や誤認逮捕の噂もあるおそまつなところである。たとえ事件になっても犬連れと散歩老人の喧嘩の事実関係などきちんと調べることは到底できない。この程度のことなら市民自ら解決していかなければならない。私は年寄りらしく解決したけど。
続く |