愛しき夜の紳士淑女たち 夜イメージ

10.努力家


09/08/18
By 大竹文章 さん
デートイメージこの町は大地主が多い。そのほとんどはケチである。パブで遊ぶにも「1晩1万円」が相場だ。ところが相続したばかりの若い2代目や3代目は、いつも30万円以上の札びらを財布に入れていた。若いといっても、すでに40歳をすぎた男たちである。ようやく先代が死んで、自由に印鑑を使えるようになった佐藤三郎も、その一人であった。

佐藤は同じ消防団員仲間とパブMOMOへ行くようになり、男の遊び方を少しづつ教えられた。友人の真野進は、自称「二人の愛人を持つ」遊び人だった。佐藤は、パブMOMOの良子ママにほれ込んでいた。一晩で5万円使うことはザラである。同伴出勤も多くなる。パブMOMOには7人の若いホステスがいるが、30歳をすぎたばかりの良子ママは、ひけをとらなかった。良子ママは銀座でホステスをしていたことを半ば自慢していた。佐藤は「ママには男がいるはずだ」と思ったが、その影はなかった。ただし4人のライバルがいた。不動産屋のA,電気工事会社社長のB、上場企業の部長C、大地主の息子Dである。

「負けてたまるか」と佐藤は闘志を燃やした。良子ママを落とすために努力する日々が続いた。毎晩パブMOMOに通う。それはママを監視する意味もあった。やがて佐藤は、ママと二人で温泉へ行く約束をした。妻には「消防団の仲間たちと懇親会に行く」とウソを言った。真野がアリバイ証人だ。行く先は熱海であった。

佐藤三郎は体力づくりに励んだ。スイミングスクールに通ういっぽう新宿の薬局で「一番効く精力剤」を注文した。しかし高いものを売りつけるばかりで効果はなく裏ビデオを見ても反応がない。今度は沖縄から、マムシ酒とマムシの粉末を取り寄せた。少し多めに飲んでいるうち、下半身が3日間も鉄のように硬化した。効きすぎて軟化しない。ズボンの前が突張って人前に出られなくなった。生まれてはじめて新大久保の性病科医院を訪れ、傷ついた突端に赤チンキを塗ってもらった。「馬鹿なことをしてるね」と真野が笑った。
「バイアグラがあるじゃない」という。

しかし医師に「バイアグラを買いたい」という勇気はない。一応、地域の名士である。不動産業者と一緒に池袋の中国人パブで遊んだ。そこで「最近、精力が落ちてね」と話すと「バイアグラあるよ」とマスターがほほえんだ。ありがたい。「1時間前に1錠飲む。早すぎても、遅すぎても駄目」と説明を聞いて10錠5万円で購入した。それは、はじめてみる緑色の錠剤であった。小さなポリ袋に入っている。マスターは「内緒だよ」といい、心臓肥大や血圧が高ければ危ないと教えてくれた。佐藤は医師の健康診断を受けた。正常だった。

そして当日が来た。熱海の密会が進行した。良子ママが浴室に入った時、バイアグラを2錠飲んだ。ところが1時間すぎても肝心の効果がない。あせるほど心と体が反発した。ママはなぐさめてくれる。が、朝になっても不発におわり惨めな一夜となった。
佐藤は2日後、真野にバイアグラを見せた。「これはニセモノだよ!効くはずがない」真野はあっさり答えた。(登場人物名、店名は仮称)


 

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