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映画「男はつらいよ」の主人公、寅さんを演じた渥美清(本名/田所康雄)は1928年3月10日、東京都台東区に生まれた。巣鴨中学を卒業後、工員として働きながら、担ぎ屋、テキ屋(露天商)の手伝いをしていたというから「粋なねえちゃん立ち小便」「お尻のまわりはクソだらけ」などの名調子は、このころ体験したものに違いない。
終戦直後の日本では焦土と化した街の一角で、このような叩き売りが見物人を陶酔させていた。プロの漫談より面白かった。昨今テレビで貧芸を売り物にするお笑い芸人は、このような本物を探し出して修行するとよい。どうしても探せない時は落語家の春風亭小朝師匠に大金を払ってでも教えを乞うべきである。日本の貴重な風俗文化の一つなのだ。誰かが継承しなければならない。発声は青果市場の仲買人を想像するとよい。笑わせることもできない人間は商人として失格だった。彼らは立派なパフォーマーであり名人芸があった。時代劇に出てくる門前町の、がまの油売りもテキ屋のはじまりの一つといえよう。
テキ屋は、広辞苑によれば【的屋】「いかがわしい品物を売る商人。やし(香具師)。ねらいが当れば利益を得るところから、的に矢が当ることになぞらえたものをいう」という。
寅さんのスタイルはヤクザである。テキ屋は土地の顔役に仁義をきって場所を借り商売をする稼業だった。流浪のヤクザと紙一重であった。この寅さんスタイルは山田洋次監督と渥美清のコラボレーションに違いない。また「粋な」啖呵は脚本に書かれたものでなく渥美清自身が覚えていたものを採用したのではと思う。
さて、2007年1月29日午後8時の(フジテレビ)ドラマ「浅草ふくまる旅館・ガンコ熊の恩返し」(西田敏行主演)で熊田(今井雅行)と言う露天商役が登場していた。「寅さん」を彷彿とさせる「熊さん」のバナナの叩き売りを、みんなで楽しむという場面がある。
一つの見せ場でもある。ところが「熊さん」の口上は、あまりにもおそまつだった。声の張りがなく早口で何をいっているのかわからない。見ていて腹が立ってきた。この連続ドラマの宣伝文句は「抱腹絶倒の人情喜劇」だったからだ。久しぶりの喜劇ドラマだというので、すこし期待していた。まして、主演の西田敏行は1967年、渥美清の「泣いてたまるか」で出演デビュー、「男はつらいよ」49話ではマドンナの兄役。主役の映画「釣り馬鹿日記」のシナリオは山田洋次だった。
西田敏行はどんな気持ちで、今井の演技を見ていたのだろうか。テレビドラマの中で、笑いながらバナナの叩き売りを楽しむ旅館主を演じる西田敏行を、私は複雑な思いで視ていた。
(続く)
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