
販売元: 東宝
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森繁久弥が喜劇役者として東宝の看板スターになっていくのはサラリーマン映画「三等重役」の脇役で光ってからだ。時代劇「腰抜け巌流島」(主演)で開花、「凸凹太閤記」(主演)などで爆笑を得た。森繁久弥主演の映画では題名に「喜劇」とつくことが多かった。
「喜劇駅前温泉」「喜劇駅前飯店」「喜劇駅前弁当」このように「喜劇・駅前」と頭につく「茶釜」「天神」「音頭」「怪談」「金融」「医院」「大学」「各駅停車」「番頭」「競馬」「弁天」「漫画」「百年」「探検」「満貫」「開運」「火山」「桟橋」とすさまじい。駅前シリーズだけではない。「喜劇」と頭につく映画はこのほかにも「黄綬褒章」「百点満点」がある。東宝の方針も、ここまでくると相当きついものがある。一つ当れば「シリーズ」なのだ。
個人的には「新・夫婦善哉」が印象に残る。森繁久弥には古いタイプの遊び人がよく似合った。また「わが名はペテン師」「森繁のデマカセ紳士」などもピッタリしていた。
興味深いのは他社の映画にも時折、出ていたことだ。話題作「神坂四郎の犯罪」「警察日記」「人生とんぼ返り」は日活作品。松竹の「男はつらいよ」(1971年)にもゲスト出演している。
私は東宝創立50周年記念公演「屋根の上のバイオリン弾き」に挑む森繁久弥に直接会ったことがある。この時、森繁久弥は東宝撮影所「海峡」撮影現場でラーメンをおいしそうに食べていた。「痛風になっちゃった」といいながら、である。
私は、こう質問した。「異性への関心は」と。
「無関心とはいいません。でも無鉄砲ではなくなりましたね。昔のように。(笑い)あれは無鉄砲だと逆流する。逆流すると疲れる」
そして、これだけは聞きたいと思った。
「チャップリンのライムライトのような作品はつくらないのですか」すると森繁久弥は目を輝かした。活き活きしてこう声をはりあげた。
「ぼくは、そういう映画を撮りたい。が、東宝が買ってくれない。老人が18歳の女の子と恋愛する。お互いにカネと欲でだましあう。ある時ガチッと歯車が合って人間愛に変わる。たまらないね。(マネージャーへ向かって)誰か、そういう本を、書けないかねえ」
チャップリンを引き合いに出したことが、彼を刺激したようである。 森繁久弥とたえず共演していた俳優に故人となった三木のり平がいる。喜劇役者としては彼も一流だった。森繁扮する社長の部下役として絶妙な芸を確立していた。森繁久弥と彼の宴会かくし芸は、観る者を心から笑わせた。あの座敷芸はもう二度と見ることはできないだろう。その名残りはテレビCMの「江戸むらさき」にみることができる。
次いで社長の秘書として、社長夫人と社長の愛人の間を走り回る愚直な若手サラリーマンを演じ続けたのが小林桂樹だ。社長から「お願いだから内緒に頼む」と頭をさげられても「駄目です」と突っぱねる場面は涙が出るほど面白かった。小林桂樹は、いまテレビドラマ「牟田刑事官事件ファイル」でシブイ演技をみせているが、森繁久弥や小林桂樹が喜劇映画のコンビであったと知る人はどれだけいるだろうか。
(続く)
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