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四十七 勘定奉行 松本秀持 
 
天明四年四月。田沼意次は、勘定奉行の松本秀持から、蝦夷地に関する報告を聞いた。三年前から松前藩について調べている。もう結論が出る頃であった。報告は江戸城中でなく、夜、田沼私邸でおこなわれた。秀持は淡々と説明した。

「密偵七人のうち、帰ってきた者は男女二人。しかも、命からがらでございます。怪しいと見られただけで、他国者は殺されています」「そうか。やはり松前の警戒は厳しいか」「残念でございますが抜け荷の証拠は入手困難でございます。かくなる上は幕府の見分役を派遣し、正式な調べをするしかありませぬ」

「そろそろ、よかろう。松前は一万石格の小藩とはいえ、うしろで後押しする大名が結構いる。見分は産物と交易の実態掌握と金山探し。大名達も関心が深いようだ」「当面は、赤蝦夷と抜荷の調べ。松前の反発もあろうかと思われますが、まず、そこからはじめなければないらないかと思われます」「それでよい。建議の名目は、赤蝦夷の儀、とせよ。赤蝦夷となれば異国との交易問題。幕府として見逃すことができなくなる。また、この議題が幕府の正式なものとなれば、松前は従うしかない。他藩も異論を唱えることができない」

「赤蝦夷とはロシア商人のこと。しかしロシア商人は役人を兼ねている由、上申書は露商人の儀としたほうがよいのではありませぬか」「赤蝦夷とは、仙台藩の医者、工藤平助が書き記した赤蝦夷風説考からとったものだ。つまり、仙台藩が口火を切った話ということにしたほうがよい」

「はっ。上申書は赤蝦夷見分の儀といたします。ところで見分役はどのような者を選びましょうか。旗本の方々が、その気になっております」「旗本は役立たずばかりだ。御家人から選び、隠密の経験がある者を加えてくれ」「ということは、何人かを派遣するのでございますか」「そうだ。少なくとも一人は蝦夷地、二人は赤蝦夷との境目に当分、駐留しなければなるまい。ところで、松平定信の風聞を聞いたことはあるか」

意次は話をがらりと変えた。「はっ。いま東北諸藩は、いずれも凶作で大きな減収となっていることはご承知のとおりでございます。定信殿は家中に、こう述べたそうにございます。『わが領内にたとえ一人の餓死者を出しても、国主の天職にそむくことになる』と」 白河藩は十一万石余だが、十万八千六百石の減収という未曾有の壊滅的危機に見舞われた。病弱の松平定邦は天明三年、二十五歳の定信に家督を譲ったばかり。そのあとは立って歩くことも出来ず、床に伏したままである。

続く







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