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舞台『レインマン』に感動
 
By F・安田さん
レインマン




先日、東京グローブ座で上演されていた『レインマン』という舞台を観て参りました。舞台〈作品〉の基となっていますのは皆さまもよくご存知の同名のアメリカ映画、ダスティン・ホフマンとトム・クルーズが共演し、この年のアカデミー賞4部門を獲ったあの名画です。今から18年前、1988年の公開でした。

さて、私は映画解説者ではありませんので長い解説は避けますが、ご存知でない方の為に少しだけ物語をご説明しましょう。

〜STORY〜
まだほんの子供だった頃に母と死別し、成長の過程で厳格な父と事ある毎に衝突し、反発して家で出たのちは株の売買で成功し、今や大金を動かす事業家にまでのし上がった弟と、自閉症というハンディキャップを負っていることを理由に家族から隔離され、ずっと施設で暮らしていた兄とが父親の死をきっかけに久しぶりに再会を果たす。

ところが父が残した遺言書には莫大な財産の殆どを兄に、弟には古ぼけた車と〈弟にとっては価値を見出すことの出来ない〉バラ園のみを与えるということが書かれていた。嫉妬と野心に燃える弟は後見人の目を盗んで自閉症の兄を連れ出し、旅を続けながら自分に与えられる財産を少しでも多くしようと画策する。

再会までの今更埋めることの出来ない長い時間、野望に満ちた者と障害を持つ者との間に敢然と存在する価値観の相違…。しかしやがて2人は、血を分けた者同士であるからこそ感じるお互いへの愛情を自らの内に見出しながら、過去の事実を理解し、これからの生き方を模索していく。

この『レインマン』は、コンピューター加工を駆使した最近の派手な映画とは対極にある、実写によって心の移ろいを描いた地味な作品でした。しかし、当時私はこの映画に大きなショックと感動を覚え、今でもその余韻は心に残っています。そうしたこともあってこの映画が舞台化されると聞き「あれを本当に舞台化するのか」と、半信半疑で出掛けて行ったわけです。舞台版はダスティン・ホフマンが演じた兄役〈レイモンド=レインマン〉を橋爪功が、トム・クルーズが演じた弟役〈チャーリー〉を椎名桔平が演じておりました。
さてその出来栄えですが、これはまさに“秀逸の作品”でした。これまでに何度か観ている橋爪氏の舞台で、【立て板に水】といった氏が得意とする台詞進行がどちらかと云えば好きではなかったのですが、この舞台に於ける抑制の効いた演技は「他に代われる役者はいないだろう」と、唸らせるほどでしたし、一方今回初めて拝見する椎名氏も難しい役どころを巧みな演技で堪能させてくれました。

ちなみに大ヒットした映画の舞台化は、映画の印象が余りにも強過ぎる為、製作者がその陰影を追い求めようと(再現しようと)すればするほど逆効果になるというのが定説になっています。『チキチキ・バンバン』『王様と私』『南太平洋』『風と共に去りぬ』『ゴースト』『世界中がアイ・ラブ・ユー』等々、映画の出来に比べて舞台はどれもがお粗末な作品(もの)でした。その理由は簡単なこと、これらの舞台は映画の呪縛から抜けきれていなかったのです。

視覚的要素が強く〈映像は言葉よりも遥かに、巧みに状況を説明する力を持っています〉“何でも可能”な映画に対し、物理的スペースや時間的制限を有する舞台では時空間、場合によっては事象そのものを観客の想像に委ねるしかありません。同じテーマを扱うにしても演出方法を変えることは当然のことながら台本を一度解体し、改めて構築していって初めて舞台上演が可能な作品として成り立つのです。

すなわち、【映画の舞台版】という意識を捨てるところから作品造りは始まるのです。また観客も、 “映画と舞台とは別物である”との認識を持って作品に臨まなければ、「裏切られた」という思いを抱くことになるでしょう。

こうした観点からすると、舞台『レインマン』は設定が現代の日本人にも共鳴するような内容にシフトされていながら、映画で描かれていた雰囲気を何ら損なうことなく、場面によっては生の舞台であるからこそ可能となる役者の息遣いや汗の匂いがそこにあり、一流の舞台作品として確立されていました。チケット代金はS席で8500円と、決して小額ではありませんでしたが、「観てよかった」と心から思える舞台でした。

資料に依ればこの企画(映画『レインマン』の舞台化)は世界で初めてのものだったそうですが、誰もがやったことの無いことへの挑戦は、どれほど勇気の要ることだったでしょう。この無謀とも思える取り組みに挑戦したTBSプロデューサー河出洋一氏に、解体・再構築という難しい作業をこなし見事な台本に仕立てあげ、演出をも担当した鈴木勝秀氏に心からの賛辞を贈りたいと思います。

派手なキャスティングと宣伝によって興行収益を伸ばしている映画『男たちのYAMATO』の駄作ぶりにはガッカリさせられましたが、話題にならなくても質の高い舞台は確かあるもの、舞台『レインマン』は大満足の一本でした。




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