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「ナイル殺人事件」を観て思うこと。
 
By くたびれ酔虎さん
ナイル殺人事件

ナイル殺人事件
「・・・を撃ったのは、君だ!」
役者の、鍛えられた、よく通る低い声がピンと劇場内に響いた。
クライマックスだ。観客は固唾を呑んで舞台の役者に釘付けになる。

劇中、「月」の単語がたびたび出てくる。太陽と月。このドラマのキーワードだ。
どんな月なのか、満月? 上弦、下弦の月? それとも三日月?
観客には一切それは舞台で示されない。観客はライティングの加減でそれぞれが想像するしかない。

映画は完成された芸術、一方の舞台は無駄を省き簡素化された未完成の芸術。
だからこそ観客は想像力を膨らませ、舞台と一体化した、非日常的瞬間を疑似体験できる。

砂漠の乾いた空気すら頬に感じる。
熱気を含んだ風に乗って、様々な音が幽かに聞こえてくる。
車の警笛、子供たちの喚声、早口で何やら捲くし立てる商人たちの声、雑踏の喧騒、そしてどこか寂しげなジャッカルの遠吠え。

想像力を刺激される時間を一時でも持つことは非常に大事であると思う。愛情は想像力の賜物と聞く。
こうすれば相手は喜ぶであろうと想像できるからこそ、愛情を示すことができる。
想像力の乏しい者は人をうまく愛することができない。故に想像力を鍛えれば鍛えるほど、人生は奥深いものとなる。

最後に苦言を。
私は、役者の充足感に満ちた顔で観客の拍手に応えるカーテンコールの瞬間が好きだ。
舞台に勢ぞろいした役者たちは皆、まるでフルマラソンを完走したかのような満足感、達成感に満ちた顔をしている。観客は、その感動に対して惜しみなく拍手を送る。だのに私が見た公演では一回だけ。それはないだろう。感動のボルテージが極まる寸前で突然に弾けたような、何と言おうか、残念。




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