「凡てはこの日の為に」〜稽古初日〜
8月1日(月)AM11:00 猛暑
舞台 「好色一代女」の稽古初日に集まったのは出演者の15名のほかスタッフ約30名、出演者のマネージャーや劇場担当者など関係者が20数名。総勢70名を越す稽古場の下駄箱には靴が溢れ、用意しておいたスリッパだけでは数が足りず、お隣の稽古場からこっそり調達してこなければならないという有様でございました。
さあ、今回はいよいよ始まった舞台「好色一代女」の稽古初日の模様をお伝え致しましょう。
それにしてもこの日の稽古場の暑さと言ったら・・・天気予報では最高気温31℃などと申しておりましたが、いやいやどうして、そんな生易しい暑さではございませなんだ。骨董化しつつある旧時代の大型クーラーなどは飾り物程度にしか役に立たず、これだけの人間が集まった部屋を涼しくさせるなんて芸当は到底出来よう筈もなく、扇子のある者は忙しくその手を動かし、持ち合わせていない者はただただハンカチで汗を拭うという中で稽古初日は幕を開けたのでございます。
《顔寄せ》
プロデューサーを始め、全てのスタッフ、そして佐久間良子、市川亀治郎、山崎銀之丞、宮本裕子、谷啓、近藤正臣といった出演者全員が揃い、司会者によって進められていく顔寄せ・・・。厳粛な儀式でございます。シンと静まり返った中で高ぶる興奮、大いなる期待と不安を抱きつつ、(これは小生のみが感じることではなく、出演者であっても同様ではないでしょうか)小生も舞台監督の近くの椅子に腰を下ろしたのでございます。稽古場を占めるその張り詰めた空気・・・それは舞台初日を迎える間際の緊張とも、ましてや千穐楽のラストシーンを目前にした時の興奮とも違うもの。何とも云えぬこの日の緊張は何度経験しても良いものでございます。
プロデューサーの挨拶から始まった顔寄せは、出演者及びスタッフの紹介、脚本家ならびに演出家からの言葉へと続き、出演者を代表して今回の舞台の主役である佐久間さんからの一言。「一体どんな作品になるのか、今は予想も付きません・・・。山田さん、宜しくお願い致します。そして皆さん、これからの一ヶ月、熱い夏を乗り切って良い芝居をつくっていきましょう」
思えば「西鶴の“好色一代女”を舞台作品に!」というこの企画が持ち上がってから約2年。長い助走期間のすべては、この稽古初日に向けてあったと云っても言い過ぎではありません。齋藤雅文氏による想像以上に質の高い脚本が出来、出演者が決まり、スタッフが揃っていくその道程は恐ろしく長かったようでもあり、瞬く間に過ぎた閃光のようでもありました。ああ、凡てはこの日の為に・・・そして、とうとう始まりました。
《本読み》
顔寄せが無事に済むと、休憩を挟んでいよいよ本読みと相成ります。手に手に台本を持ち、出演者はことのほか緊張の面持ち・・・。そりゃそうでしょうとも、この難解なる本を演出家からの指示を何も受けないままこれから演じる(本読みをおこなう)のです。机に台本を置き、椅子に腰を下ろしたままとはいえ、これまでに如何に本を理解し且つ読み込んできたか、どう役作りをしようと考えているのか、この本読みで全てが明らかになるのですから・・・。
演出助手がト書きを読むということのほかは本番通り、一幕と二幕の間に20分の休憩を入れただけであとはノンストップで続けられたこの日に本読み。さて皆さまは一体どんなだったと思いますか?小生、この本の凄さを改めて認識致しました。黙読していた時には気が付かなかった場面で笑いが起こり、またある場面では思わず涙腺が緩んでしまうようなこともある・・・。それぞれの役になり切って演じる出演者の生きた台詞によって描かれたこの物語は、到底筆舌に尽くしがたい感動を与えてくれました。それは勿論、本のせいばかりではありません。この舞台、今回のキャストは正に大当たりと言えましょう。
こうして恙無く終了した舞台「好色一代女」の稽古初日。夕方になっても一向に涼しくならない稽古場で、出演者も、そして我々スタッフもこれから始まる暑い一ヶ月に改めて思いを新たにするのでありました。 ではでは
追記 ここで、顔寄せでの中根プロデューサーの挨拶を一部ご紹介しましょう。
かつて僕が東宝に籍を置いていて、演出家・蜷川幸雄を初めて呼んで芝居を創った時、皆を前にこんな事を言いました。
「新宿のアングラ芝居を観ているお客様も、帝劇や日生劇場でお金をかけた商業演劇を観ているお客様も、みんなが来てくれて、みんなが楽しんで下さる新しい舞台を創っていきたい。今までに無い、何処に行っても観ることの出来ない新しいものを・・・」と。
今回、西鶴の原作を基に齋藤さんが素晴らしい本を書いて下さいました。元禄の世に生きた愚かで、純粋な愛すべき人たち。そこはかとなく可笑しく、また物悲しい物語り。大劇場の演劇は沈滞し、小劇場は勝手に突っ走っている、そんな現在の演劇界にこの作品はきっと一石を投じる予感がします。
キャストには大劇場で活躍する佐久間さんや近藤さん、かたやどちらかと云えば小劇場を中心に頑張っている方たち、そして歌舞伎の亀治郎さん・・・。あっつ、谷さんもいらした(笑)。普段はそれぞれ全く違ったフィールドで活躍している皆さんが集まり、上手いこと山田さんの掛けるドレッシングで新しいサラダになって欲しい。今までに食ったことの無いような美味しいサラダを。
これから一ヶ月、どうか皆さん楽しい稽古場にして楽しい舞台を創って下さい。期待しています。
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