「今も生きる熱き舞台」〜ある演劇のかたち〜
梅雨明けとともに暑くなった東京では、日が落ちてもなお熱を帯びたコンクリートが否応も無く寝苦しい夜を演出しております。こうなると、こちらもまた勝手なもので「一雨欲しい」などという我儘な思いを抱きつつ、小生、子供の頃に田舎で聴いた蜩(ひぐらし)の声を懐かしく思い出しております。
さて、今週は舞台「好色一代女」の制作裏話を一休みし、小生が先日観て参りました舞台のお話を致しましょう。
皆様は “燐光群”という坂手洋二氏が率いる演劇集団をご存知でしょうか?先週末小生が観て来た舞台は、この劇団の『上演されなかった「三人姉妹」』という作品でございました。所は新宿、紀伊國屋ホールでございます。坂手氏の作・演出による作品はこれまでにも何本か観たことはあるのですが、今回の作品は小生の周りでは何かと話題になっており、「そこまで言われちゃぁ、観ねばなるまい」と、当日券を並んで購入し、最後列から拝見させて頂いたわけでございます。
ストーリーは、武装したテロリスト達に占拠された劇場での話。2〜3年前にロシアのチェチェン共和国でこれと同じような事件がありましたが、これにヒントを得た坂手氏が、事件の舞台を紀伊國屋ホールに置き換え、当日客席を埋めた我々観客までがその現場に居合わせたというシチュエーション、彼ならではの発想に基づいた舞台なのであります。テロリスト達と人質である役者や観客とのやり取り、そして政府との交渉。台詞にはチェーホフの「三人姉妹」のストーリーが微妙に織り込まれ、それぞれの立場の人間の複雑な心の動きを描いた作品でございます。
さて、“燐光群”をご存知の無い方にほんの少しだけご紹介しましょう。(但しこれはあくまでも小生の独断と偏見に満ちたご紹介でございますのであしからず・・・)
1,000人を超す観客を一度に収容できるような大劇場で何十ステージもこなす演劇を仮にメジャーと呼ぶならば、この劇団はまさにその対極で活動を行っております。(とはいえ、マイナーという表現もしっくりしませんが)今回の公演も1回の収容人員は300名弱。そこでたった10日余りしか上演しないのですから、この点に於いては決してメジャー集団ではありますまい。しかし、たとえそうであったとしても、それだけで彼等を侮ってはなりません。かりそめにも演劇界に身を置く者ならば、間違っても「“燐光群”なんて知らない」などと言うことは許されない程実績を残してきている正真正銘のプロ集団なのでございます。
ではどの辺が我々プロから観て“プロ”なのかと申しますと・・・う〜ん、これは大変難しい問題です。と言うのはどんな表現をしたとしても、正解のようでもあり、また違っているようにも思えるのです・・・。さまざまな非難を受けることを敢えて承知で申し上げるならば、この劇団の作品には一貫した“揺るぎの無い主張”というものがあるのでございます。
かつて日本でも、学生を中心とした“主張を持った若者”が社会という実像の無い巨大な敵に対し戦いを挑んでいた時代がありました。日米安保やベトナム戦争という些かきな臭い世情を背景に、戦後の発展とともに豊かになってゆく自国のあり方を巡り、地位や名誉やお金を持たない学生たちが理論という鎧を身に付け、言葉と行動という武器を持って体制に戦いを挑んでいたあの頃・・・。演劇という総合芸術によって彼らは自らの思想を声高に宣言し、あらゆる矛盾を糾弾していったのでございます。“燐光群”、それはまさにあの頃の匂いと気概を色濃く残している集団なのでございます。こうした生き方には勿論賛否両論あるでしょう。客に媚びず、決して阿(おもね)らない姿勢に拒否反応を示される方も少なくないに違いありません。しかし確かにあの時代、強烈なカリスマ性を有したリーダー達はそれぞれに演劇集団を結成し、アングラ(アンダーグラウンド)の世界で、ある世代の若者たちを牽引していたのでございます。
最高気温33℃を記録した日曜日の新宿で、休憩の無いぶっ通しの2時間15分という時間を、膨大な台詞と躍動的な演出で迫ってくるこの舞台の迫力は、“好きor嫌い”は別として、なかなかのものでございました。
ところで、全共闘世代に学生だった方がたは、現在お幾つになっていらっしゃるのでしょうか。今思えば、彼等は熱い青春を過ごしていたのですね。(今の学生には想像も出来ないことでしょう)もし皆様の中に全共闘という言葉に懐かしさを感じられる方がいらしたら、坂手さんの作品を一度はご覧になったら如何でしょうか?あの時の貴方をそこに見つけられるかもしれませんよ。ちなみに今や “この手”の作家及び演出家は坂手さん以外はもうほとんど消えてしまいましたが・・・。 すべてが今は昔・・・ですね。 ではでは
後記:ほんの軽い気持ちで出掛けた観劇に、すっかりいつものつぶやきの感覚(調子)を奪われてしまいました・・・。しかし、それも舞台であればこその話。生の舞台はそれほどに心に響くものであります。(映画ファンの方には申し訳ありませんが)
次号からはまた、「好色一代女」の制作裏話をお伝えするつもりでございます。どうぞお楽しみに。
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