「出演者の横顔」〜Part 3のつづき “オコジョ”事件〜
三島由紀夫の小説に「永すぎた春」という作品がありましたが、前置きばかりをダラダラと続け、結局本筋にまで到達しなかった前号の“つぶやき”はさしずめ「永すぎた前置き」・・・。皆様には大変失礼致しました。今回はそんな小生の悪癖を危惧しつつ、同じ轍を踏まないようお伝えしたいと思います。
では早速始めましょう、宮本裕子さんのご紹介のつづきでございます。そして同時に小生の思い出したくない過去の物語・・・。
それは顔寄せ(稽古初日)の日から数日経ったある日のこと。この日も稽古は順調で、演出家(山田和也氏)が綿密に立てていた稽古スケジュールをキャストの4人(佐藤オリエ・安原義人・宮本裕子・大沢健)はラクラクとこなし、駄目出しも殆どなし。予定時刻よりはるか前にアップ(終了)となったのでございます。と、「あまり先を急いでも仕方がないから、今日の稽古はこれで終わりにしましょう、あとは座談会ということで。まあ、用事のある方は引き留めませんが・・・」山田さんのこの一言で、その場はたちまち座談会となったのであります。こんな時の稽古場は実に和やかで(めったにあるものではありません)、話題は過去から未来にまで及び、アカデミックな話をしていたかと思えばアルコール好きな者からは早くも千穐楽の打ち上げの2次会の場所選びの話まで出るという具合。それはそれは楽しいひとときでございました。と、そんな輪の中に居た小生、新たな話題を提供すべくこう切り出したのです。「宮本さんって、オコジョに似てますよね。言われたことありませんか?」と。するとゆう子ちゃんは「誰、それ?」と怪訝そうな顔。「やだなあ、オコジョですよ、動物の・・・」と小生。しかし、ゆう子ちゃんからは「知らない」「聞いたことない」のつれない返事。と、そこに「 “おごじょ”じゃないの?それ」というスタッフの余計な声。「それはオ・ゴ・ジ・ョ。女性のことでしょ?薩摩おごじょとか言う時に使う・・・」「なんだ、皆さん知らないんですか?・・・すばしっこくって、この位の大きさで・・・」「山田さんも?えっ、どなたも知らないんですか・・・」「そうですか・・・」「知らないんですね・・・」次第にトーンダウンしていく小生でございました。
さて皆様は“オコジョ”という小動物をご存知でしょうか?標高1500m以上の山岳地帯に生息し、別称“山の妖精”というあの愛らしい野生動物を・・・。 “出逢うと幸せになれる”とまで言われているくらいめったにお目に掛かれないものでございます。夏は栗色、冬になると尻尾の先端だけに黒を残し、全体は真っ白な毛に生え変わります。体長15〜25cmほどの小さくてすばしっこい、なんとも可愛いヤツです。
それまでの和やかなムードをしらけさせたら申し訳ない、とその場はそれ以上言及するのを辞め、小生この日は大人しく稽古場を後にしたのでございます。しかし、何としても悔しい。座談会を盛り上げる話題を提供できなかったことに加え、“オコジョ”の可愛らしさを皆に伝えることが出来ぬまま話が途絶えてしまったことが余りに残念だったのでございます。「嗚呼、愛らしい小動物オコジョよ、ごめんな、お前の話題できっと座談会は盛り上がると思ったのだよ・・・」
実は小生、現在のように舞台の神様に憑かれる(?)前は山の神様に憑かれていたことがございまして、その頃は季節を問わず休みともなれば大きなザックを背負って全国の山を登っていたことがございました。
そしてある年の冬、上高地から入って穂高に向かう途中、横尾を過ぎた辺りの山道で、真っ白な冬毛を纏ったオコジョを見たのです。視界の隅に何かがチラッツと動き、おそらく白樺の木の皮が剥がれて風で舞ってでもいるのだろうと目をやったその先に妖精がいたのです。雪に埋もれた樺の木の根元で、いたずらっぽい大きな目がこちらをじっと見ていました。それはわずか一瞬の出来事でしたが、あの時の愛くるしい姿とヤツに出会えたという感動は今も忘れることが出来ません・・・。山の話をし出すとまた前回の二の舞になりそうです。立ち止まらずに進みましょう。
何はともあれ、小生にとって「“オコジョ” に似ている」ということは最大の賛辞であるのです。これこそ“オコジョ似(?)”のゆう子ちゃんに捧げる最良の言葉だとかたくなに信ずる小生は・・・家に帰ると、めったに開かぬ広辞苑で“おこじょ”を引き、拡大コピーしてあくる日の稽古場に持参したのでございます。(これがそもそもの間違いでした)
前日の楽しかった座談会の余韻が微かに残る稽古場で、この日も稽古は順調に進んでいきました。やがてこの日は予定通りに稽古を終了。着替えを済ませたゆう子ちゃんに、握り締めていた拡大コピーを持って行った小生は胸を張って見せたのです。「ほら、これがオコジョです」と。
しかし、小生の指先からコピーをサッ取っていった手が有りまして・・・。それはオリエさんの手でございました。
オリエ「なんだ、いたちじゃない・・・」
ゆう子「えっ?イタチ?嘘でしょ?」
オリエ「いいえ、イタチとちゃんと書いてあります。それからええと、なになに、ネズミなどを主食とし、まあキモチわるい!」
ゆう子「えっ!?ネズミ?」
小生「あの・・・その・・・」
オリエ「ゆう子ちゃん、プロデューサーに言いつけなきゃダメよ。《お前、イタチに似ているナ》って言われたって。絶対に許してはいけません」
ゆう子「イ・タ・チ・・・」
小生「あの、その、イタチじゃありません、オコジョです。別に変な意味じゃなくって・・・イタチじゃあありません・・・」
オリエ「だってそう書いてあるじゃない、ほら」
慌ててオリエさんから奪い返したコピーに目をやると、そこにはこう記されてありました。
“おこじょ=イタチ科の哺乳類。ヨーロッパ・北米・アジア北部、日本の中部以北に分布。小鳥やネズミ類を食べる 云々”と。血の気が失せ、明らかに体温が下がっていく自分の身体を何とか支えながら、誰かに助けを求めようとうなだれた顔をやっとの思いで上げると、そこにあるのは怒りに燃えたゆう子ちゃんの厳しい目・・・。そこにまた追い討ちをかけるようなオリエさんの声が響いてきた。
「冗談にしても言ってよい事と悪いことがあると思います。わたくしは・・・」
そしてそれに呼応するような山田さんの声。「あ〜あ・・・確かにまずいよ。女優さんに対してイタチに似てるっていうのは・・・」
あとは稽古場に居合わせた総勢20数名による「あ〜あ」の大合唱・・・。
その場に立ち尽くす小生は、きっと半泣きをしていたに違いありません・・・。あれからどうやって、家路についたのでしょう・・・思い出すことが出来ません。
翌日、稽古場に向かう元気など無い小生は事務所のデスクに朝からぼんやりと座っておりました。 次号につづく
追記1 今回で完結しようと思っていたPart3でしたが、またもや予定が狂ってしまいました。次回こそこの哀しい(?)お話の最後までお伝えしたいと思います。ご了解下さいませ。
追記2 「好色一代女」に関するお知らせです。この舞台の音楽担当には編曲家として、またジャズピアニストとしても高い評価をうけている島健(しまけん)さんがスタッフとして名を連ねて下さっていのですが、ここに三味線の名手、上妻宏光(あがつまひろみつ)氏が三味線演奏者として参加下さることが決定致しました。井原西鶴原作によるこの古典に、ジャズと三味線がどう融合するのか?これからの展開についてはまた詳しくお伝えすることに致します。どうぞお楽しみに。 ではでは
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