ぶたい制作日記 2005年3月16日(水)

「走れないメルス様の苦悩に対して」

さて皆さま、3週間ほど前に当サイトに掲載された“走れないメルス様”からの投稿コラム【堪能?苦悩?野田ワールド。「走れメルス」を観劇】をもう読まれましたか?

このコラム、野田秀樹さん(作&演出&出演)の舞台「走れメルス」を観劇した著者が抱いた「?」が書かれているのですが…。今回のつぶやきではそんな悩めるメルス様へのお返事として、演劇界に身を置く小生の考えを少しばかり申し上げたいと思います。(余計なお世話かも知れませんが・・・)


まずは苦悩するメルス様、貴方様の投稿を読み舞台制作が本業の小生としては当然何らかのコメントを出さなければならないと思いつつ、その実現が今日になってしまったこと、どうぞお許し下さいませ。

実は小生思うところあってこの舞台を観劇しておらず、一体どんなふうにお答えすべきか、ずっと思い悩んでおりました。(今もって最善のお返事の方法を見つけあぐねておるのですが…)とは言えいつまでも無為に時間を過ごしていても埒が明かず、思い切ってお返事する決心を致しました。

さてメルス様、貴方様がおっしゃりたいこととは早い話、“舞台「走れメルス」は面白くなかった”ということですね。さらに“連日満員となっていたあの舞台、観客は本当に面白いと思っているのか?”ということでしょうか。期待を裏切られたことに対する憤懣やる方ない思いが文中よりひしひしと伝わって参ります。「これが自ら関わった作品だったら…」こう考えるとメルス様の一言一言が我が身に向かってくる刃のように感じられます。

さて些か乱暴な気も致しますが、小生からメルス様に何か申し上げるとしたら「残念でした」としか言い様がありません。そして次に申し上げたいことは、舞台に限らず文学や音楽や絵画…そのほか考えつく限り芸術と言われる(思われる)ものは全てが嗜好品であるということなのです。どんな食べ物も万人にとって美味しい(と感じられる)ものなど無いのと同じように、誰にだって好みがあるわけですから、ご覧になった舞台をつまらないと感じても、それが即ちメルス様の感性が鈍いとか解釈の仕方が間違っているということにはならないでしょう。たとえそれが超人気の話題作だったとしたって同じことです。あくまでもそれは趣味(好み)の問題であり、他人の反応と違っていたとしても仕方がないことだと思います。ましてメルス様はプログラムに記載された演出家の言葉を読み、演出意図を理解しようという前向きな努力をされたのにも関わらず「???」だったのですから。

文学に当てはめて考えてみましょう。例えば昨年の芥川賞受賞作品、10代の女性が受賞したこともあり空前のヒットを飛ばし、各マスコミがこぞって取り上げたあの作品、私は何も良いとは思いませんでした。感動なんてさらさら無い。今考えても時間を無駄に使ってしまったという悔恨しか浮かんできません。でもだからといって自分が作品の理解力に欠けているとも、また流行に乗り遅れているとも思いません。だって本当につまらなかったのですから…。評判なんてたかがその程度のものです。行列の出来るラーメン屋さんが必ず美味しいとは限らず、視聴率の高いTV番組だけが質の高い内容とも限らず、オスカーを受賞した映画だけが秀作でもない・・・。こんなところでしょうか。そんなに深くお考えにならないで下さい。そして、これが引き金となって「舞台なんて二度と観るもんか!」などということにはならないで下さいネ。今回の舞台は好みに反していたとはいえ、野田さんの他の舞台(作品)にはきっとメルス様のお気に入りのものもある筈ですから。

最近は小生、他のカンパニーの製作作品を以前ほど観なくなってしまいました。(本当は観なければならないのですけど・・・)でも「これは!」と思うものは必ず観るようにしています。その選択基準は原作の面白さ、演出家の好み、出演者の顔ぶれ、そして評判…。こんなことを参考にしながら舞台を選ぶようにしています。それでも1年を振り返ってみた時に、「もう一度観たい」と思う作品が一体どれほどあるでしょうか。書籍にしても、大抵のものは一度読めばもうそれで充分。常に傍に置いておいて何度でも読み返したいと思えるものって本当にごく僅かです。でも、新しい感動との出会いを望むならば、本なら読み続けなければならないし、舞台なら観続けなければならないのです。

そしてこれだけはどうぞ理解して下さい。舞台(作品)はその出来栄えがどうであれ、演者は勿論のことスタッフ一人一人は皆命を賭けて創っていることを…。かつて脚本家の秋元松代さんがこうおっしゃいました。「原稿用紙の一マスを埋める毎に、自分の命が削られていくような気がするわ」と。

メルス様が新しい感動の舞台に出会えることを期待しています。その時はきっと「感動の舞台にであった!」というコラムを寄せて下さいませ。楽しみにしています。ではでは

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