ぶたい制作日記 2005年2月10日(木)

「近松心中物語伝説」あとがきのつづき 最終回

先月1月27日をもって無事39回の舞台の幕を下ろした「新・近松心中物語」博多座公演。途中、風邪で熱を出したりした出演者もいたようですが、温かい福岡のお客様に支えられながら皆最後までこの伝説の舞台を務められたようです。残念ながら小生今回はこの舞台を観ることは叶いませんでしたが、今回のつぶやきではこれまでお伝えしてきたこの “熱き舞台”の伝説のあとがき最終回をお伝えしたいと思います。


前回のつぶやきではかつては三枚目のお亀を、そして今回は妖艶な遊女梅川を演じた寺島しのぶさんについてお伝えしました。当カンパニーではこの作品以外にもご出演を頂いており、彼女についてはまだまだ沢山お話ししたいのですが、本日は最終回ということもありますので他の役者さんのことも少々お伝え致しましょう。


初代忠兵衛、平幹二朗さんのこと

博多座公演で見事忠兵衛を演じきった阿部寛さん。190センチちかくもある大柄な体躯にも関わらず繊細で優しい人柄そのままにこの役を務めて下さいました。しかし、初演の舞台(阿部さんにとっての初演は2004年2月の名古屋・御園座)では、他人からは計り知れないほどのプレッシャーがあったに違いありません。なにせ平幹二朗、井上倫宏、坂東八十助(現・坂東三津五郎)という大先輩達から、大役とともにこの舞台が作ってきた歴史や伝説というタスキまでをも渡されるのですから…。

こうした歴代の忠兵衛たち。皆それぞれに持ち味を活かした役を演じて下さいましたが、ここでは初代忠兵衛・平幹二朗さんに焦点を当てたいと思います。

平さんはこの作品の他にも「王女メディア」「オイディプス王」「NINAGAWAマクベス」「元禄港歌」「鹿鳴館」など、当カンパニーが製作した舞台に数多く出演をして下さっています。ギリシャ悲劇やシェイクスピア作品、そして和物の舞台まで、大柄な身体と朗々たる台詞まわしによって見事に演じきるそれぞれの役は全てが一流で、感嘆のため息をつくほかにその感動を表現する術はありません。

4年前(2001年)、16年ぶりに忠兵衛を演じることで話題になったその舞台も、艶のある演技で観客は勿論、スタッフまでをも魅了して下さいました。生身をさらけ出し、逃げも隠れも出来ない舞台に立ち続ける為の日々の鍛錬。ストイックな役者さんはほかにも勿論いらっしゃるでしょうが、平さんほどの役者となるとそう多くはいないはずです。稽古場での佇まいの美しさとともに神経を集中させる時の眼光の鋭さ。それらが全てオーラとなって周りを圧倒します。かつてこんなことがありました。1998年、平さんにとって12年ぶりとなる「王女メディア」の稽古場でのこと、演出家の蜷川さんが「ストップ!ちょっと休憩!」と突然大きな声を出して稽古を中断し、稽古場を勢いよく出て行ってしまったのです。何が起こったのかと、稽古場がザワザワしたのは言うまでもありません。と、暫くして同じ稽古場の別フロアーで稽古をしていたニナガワカンパニー(蜷川さん本人が主宰する演劇集団)の若手(役者)を数名引き連れた蜷川さんが戻って来て(彼らに向かって)こう言ったのです。「お前ら、くだらねえ稽古やってんなら平さんの芝居、こっち来てちゃんと見てろ、バカヤロー!よっぽど勉強にならぁ!」と。

ちなみに、この平さんが演じたギリシャ悲劇「王女メディア」という舞台も日本だけでなく海外でも“伝説”になっています。伝説によれば、1984年、この物語を生んだギリシャ・アテネにあるあの巨大野外劇場、ヘロデス・アティコス(パルテノン神殿を望む、すり鉢型のこの劇場の容子は写真か何かできっと皆さまも目にされたことがあるのではないでしょうか)で演じられた公演初日、幕が下りた直後の僅かな静寂の後、会場を埋めた6000人以上もの観客が一斉に立ち上がり、それぞれが発する耳をつんざくばかりの歓声と拍手がアテネの夜空にこだまし、月明かりに浮かぶ古代ギリシャの建造物をも揺さぶるほどだったそうです。しかもこの異常ともいえるカーテンコールがなんと30分以上も続いたというのですから、それはそれは凄い光景だったでしょう。このアテネの夜の出来事(事件)を記した多くの新聞や雑誌は貴重な資料として今も弊社の書庫にファイルされていますが、その中の一つをここでご紹介しましょう。「今晩、我々ギリシャ人はギリシャ悲劇を本来どう上演すべきかを、日本人から学んだ。」(アレクシス・ミノティス 俳優・演出家)

ついでに申し上げますとこの作品の作者はエウリピデス。紀元前480〜406年頃に生きたとされる古代ギリシアの三大悲劇詩人の一人です。たとえ2000年も前に書かれた本であっても、本物であればその命は尽きることはないのですね。

秋元松代の「近松心中物語」、この作品(本)も生き続けてくれるといいなァ…。


さて、道草をくいながらつぶやいて参りました「新・近松心中物語」伝説。この舞台がまたいつか再演されることを願いつつ、このシリーズは今回でお開きとさせて頂きます。次回からはまた違う舞台のお話を致しましょう。

ではでは

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