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結婚恋愛「マイとボク」タイプ繁盛記A-95-
By 千里一歩さん

三日連続で徹夜


タイプライターといっても、明朝体、ゴジック体、楷書体があり、6ポ、8ポ、9ポ、11,5ポ(5号)、14ポ、24ポがある。文字の種類が変るごとに機械にセット(入れ替え)しなければいけない。活字は重い。約2千5百字入る1盤面だけで約15キロある。活版に代わって版下をつくるというわけだから、結構疲れる作業であった。それだけに、いざ注文が入ると、マイの気合いの入れようは、すさまじいものがあった。

一人や二人で出来ない時は外注に出した。自宅にタイプライターを設けて独立する若い主婦は多い。求人広告で下請けを募集すると30人近くが事務所に押しかけた。高島平団地から来る主婦もいる。同じ活字があるか、1日どのくらいのページが出来るか。下請け料金を決めて注文が入り次第発注することにした。マイは、その元締めになったのである。

「全部下請けに出して校正の打ち直しだけ、やればいい」といったが、注文があると「私が、これだけやるわ」と自分の量を増やした。できるだけ自分で稼ぎたいのだという。もちろん下請けには2割のマージンを乗せているのだが。
 
もっとも印象的な仕事は、A5判サイズ400ページの本をつくった時である。これは某政党の東京都議会議員選挙における政策を掲げた「改革プラン」であった。マイの親戚の世話で、ボクは某政党の印刷物を受注するようになっていた。タイプといっても、タイプレスという新型機なので出来上がりは活版活字と変わりがない。予算が少ない。時間も少ない。だから「タイプでもよい。とにかく間に合わせてほしい」という。大体、こういう内容は、ぎりぎりまで原稿内容が定まらないものだ。そのぶん印刷屋にしわ寄せがくる。

とても町の印刷会社で引き受けられるようなシロモノではなかった。部数も1千冊と少ない。しかし他の業者が敬遠するような仕事をこなしてこそ、信用を得られるのだ。マイと相談した。「この仕事は、マイが主体でやる仕事だ。できるかな」と聞くと「やるよ。印刷と製本は、ボクが手配してね」と、やる気である。

その結果、2週間で400ページを打ち上げ、あと1週間で印刷、製本するという難作業がはじまった。活版印刷会社でやれば、2倍の期間と費用がかかる。オフセットだと、もっとかかる。文字版はつくるだけではない。誤字などの修正が入る。校正である。この時間も数日かかる。

マイは三日連続で徹夜。10日間は1日15時間。昼間1時間ばかりソフアに寝て、あとは不眠不休。タイプを打てないボクは、せめて一緒にと事務所に3日間泊り込んだ。夜、一緒に銭湯に行く時だけが、ホッとするひとときである。嵐のような日々がすぎていった。こうして、プロの業者が敬遠した仕事をマイは見事、やりあげたのであった。

(つづく)


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