| 結婚恋愛「マイとボク」 ・・・越後獅子-39- |
By 千里一歩さん
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マイのお得意の歌は、美空ひばりの「越後獅子」である。マイの年齢は美空ひばりの1年下。中学生時代は村の青年団に頼まれて、よく歌ったのが「越後獅子」「悲しき口笛」「リンゴのふるさと」などであった。まだテレビのない時代だから、ちょっと器用な村のアマチュアは人気者であった。マイはオバサンになっても、カラオケでその片鱗をみせ、往時のふりを再現してくれる。大げさではない。マイの「越後獅子」は絶品である。「ボクが死ぬ時は、耳もとで歌ってくれよ」とマジに頼んである。それほどお気に入りだ。この歌には、ボク達の切ない青春が投影されている。同世代の人々なら、おわかりいただけると思う。ボクやマイは「越後獅子」を映画で観ている。
またラジオで聞いた。そこには自分達と重なる環境があった。越後獅子というのは、越後(新潟)の旅芸人。子供が獅子の面をかぶり太鼓の音に合わせて踊り、とんぼ返りする見世物。現代の日本だと児童福祉法違反、労働基準法違反などに問われる職業である。アメリカの黒人街では子供のパフォーマンスが大人のダンスに発展しているが…。つまり、山梨県の近くで幕末に登場した街道芸であった。そこまで考えて映画を観たわけではないが、子供が生活苦のために売られて芸を仕込まれるという話を歌詞「ばちで、うたれて、空見上げれば、泣いているよな 昼の月」で知り「わかるよなあ」と胸にしみるのである。
これが美空ひばりの個人的な生きざまと重ね合う。われわれの世代は、子供時代に食うために苦労したことを、忘れることができない。こんなわけでボク達はカラオケがブームになる前から、歌うことが好きであった。だから二人ともカラオケ・ソングにはまっていった。と、思っていた。ところがマイの本当の楽しみは別にあることが次第に明らかになってきたのである。
マイは楽しく「飲む」のが好きなのだ。夏はビール。冬はワインだ。マイの育った山梨はワインの産地。ところがワインは毎日飲むと結構ぜいたく品である。おカネに余裕がある時ならパブへ行くが、そうでない時は自宅で飲む。それも次第に焼酎へ切り替えている。人によって異なるがワインのよいところは食事をしながら飲むということである。ところがマイの場合、日本酒や焼酎を飲むと、ほとんど食事をしない。そのために痩せる。痩せると体力が衰える。半病人になる。これが、ある事件で極端になり死線をさまよったことさえある。豊かな時代になっても飲み方、食べ方が、わからない時がある。
ともかく、次第に年を重ねるとアルコールの量も考えなくてはならない。そこでカラオケやアルコールにかわるものとして取り組んでいるのが家庭料理である。会社経営時代。昼も夜も外食だった。ボクだけ招待されることが多いので時折マイと一緒にレストランへ行くこともあった。自分がおいしいと思った料理は必ずマイにも味見してもらった。「自分だけ、おいしいものを食べている」といわれたくなかったのである。それは「越後獅子」に涙することができる同志への礼儀でもあった。
(つづく)
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