| 結婚恋愛「マイとボク」 -35- |
By 千里一歩さん
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父 |
父は80歳をすぎていた。ボケの傾向さえなければ健康そのものであった。60歳すぎた頃からヨガ療法を続け、毎日ニンニクを生かじりしていた。小柄でやせ型。歩くことは
得意で、どこまでも歩いていた。
その父の痴呆症が次第にひどくなった。徘徊先でパトカーのお世話になり川崎と同じように警察署へ迎えに行くことが多くなった。「入院させようか」と母に聞くと「そうしてくれ」という。病院を探し歩く日々が続いた。いざとなると、どこも満員で空きベッドがない。東京都内では、とうとう見つけられず、埼玉県に範囲を広げた。新所沢市のSS病院で受け入れをOKしてもらった。父に話すと「まかせるよ」という。意識はまだはっきりしていた。ボクと会う時は正常だった。
入院の前日、マイと一緒に車に乗り調布市へ両親を迎えに行った。父が長年親しんだ深大寺公園の茶店で4人は楽しく会食した。「父ちゃん。しばらく入院しようね」と話す。「うん」と父は照れくさそうに笑って答えた。「きょうは、きれなシャツ着てるじゃん」とマイも父を冷やかした。母もこの日だけは、その様子を笑ってみている。いざ、別れて暮らすとなれば、ほっとすると同時に寂しさもある。複雑な表情はかくせない。
約3時間後、ボク達4人は新所沢市へ着いた。市内でホテルを探し2部屋とった。夕食はホテル近くのそば屋に入った。両親は天ぷら丼を食べ旅行気分で喜んだ。部屋へ戻ると、しばらくしてボクとマイは「やるか!」と下着だけになった。濡れてもよいように半分は裸である。
気合いをいれて両親を呼び入れた。「これから風呂に入れてやる」と、まず父を裸にした。そのまま父を抱えるようにマイとボクは浴室へ入る。ボクが父の頭からシャワーを流し、マイは父の体をくまなく洗った。二人がかりで風呂に入れるのは久しぶりである。父はケラケラと照れ笑いした。
「あはは。かわいい」といいながら父のオチンチンを、マイが洗っている。いまにも、つまみそうである。そのオチンチンは本当に小さくねじれて、化石のように固まっていた。こんなになってしまうのか。という驚きを覚える。ご当人の照れていることが救いであった。めずらしいものを見る思いでチンチンや尻のまわりを洗ってやる。老人の入浴は思い切りが肝要であった。介護の極みは汚物をもつかむ心意気である。それはボクより、マイのほうが、あっさりやってのけた。
浴室内は湯気にまみれ、父を浴槽に寝かせる姿勢がむずかしく、ボク達は息も絶え絶えになるほど苦闘した。それでも、ようやく父に湯上りのバスタオルを着せて浴室を出た。母は「一人でいい」といい、ボクらの手をかりなかった。その夜、ボク達は楽しい「最後の夜」をすごした。
(つづく)
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