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振り返れば楽しきかな我が人生 人生イメージ


結婚恋愛「マイとボク」 -26-
By 千里一歩さん

事件勃発
昭和57年の暮れは「大変だったよ」
マイを驚かすジケンは、その年の暮れにも起こる。今度はボク自身も驚くことになる。毎年暮れの大仕事が終わってホッとした時であった。毎日、コーラのボトル1本、大鍋のぜんざい、ミカンを食べ、相変わらずタバコを40本吸っていた。食事は食べ物が胸につまるまで食べた。「食べたい」といえば、マイは、どんな遠くへでも買いに行ってくれる。体は重くなったが精神的な開放感があった。

12月の20日の朝のことである。ボクは食べすぎで腹がビール樽のように突き出ていた。体がマンドリンのようになり、朝起きる時でも、まず横になり手で支えなければ起きられなかった。この朝は胸やけ気味で胃が重く何とか少しでも排泄しようとトイレに入り、座っているうちに失神してしまった。

「ボク!しっかりして!」というマイの声が聞こえた。うっすらと目を開けると男が二人、マイの傍に立ってボクを見下ろしている。ボクはキッチンルームの床上に大の字になって寝ていた。何があったのか、わからない。が体に力がない。倒れたようだ。横をみるとボクの顔の近くには吐いた茶色の液体がドロリと広がっている。マイが「ああ、よかった。気がついたわ。ボク?大丈夫?」と呼びかける。「大丈夫」と応えて少しうなずいた。

「どうしました?わかりますか?名前を教えてください」と見下ろしながらヘルメットを被った男が、のんびりした声でいう。この言葉でボンヤリしていたボクの脳神経は、はっきりした。名前なら、わかっているだろう。のんびりしたことをいう前に早く救急車で運んでくれたらどうだ。といらついたのである。しかしヘルメット男は、またも聞いてきた。

「昨夜、何を食べましたか」マイに聞けばわかることなのにと思いつつ答えた。「ぜんざい鍋いっぱい。コーラ、ミカンは7個くらい食べました」すると男はこういう。「どうして、そんなに食べるのですか」こののんびり質問にボクの血圧は上昇した。「どうしてといわれても。食べたかったからじゃないですか」と力ない声を強めた。われながら滑稽な場面である。救急隊員が表へ出ている間、ボクはマイに「この吐いたものをコップに入れて医者に診てもらおう」といい、マイはその通りにした。

マイは「ボクが、なかなか出て来ないので、声をかけたら返事がない。ドアを開けたらボクが座ったまま前のカベに倒れるように青い顔して倒れていた。必死でこっちへ引っ張り出したら口から茶色のドロドロを吐き出した。そのまま息が止まったら私も包丁で首を切って死ぬつもりだったよ。本当に。心配させないでよ。トイレの中は墨のようにさらさらした黒い液体がいっぱい出ている。バケツいっぱいの量になるよ。煙草のヤニの匂いとインクの匂いもした」と説明する。

「ごめん。原因はわかっている。食いすぎた」と苦笑せざるを得ない。このあとボクは担架に乗せられ、救急車に運び込まれた。マイが同乗してボクの手をにぎる。ボクは「もう大丈夫。痛くも苦しくもない」とマイを安心させた。酸素マスクをされ、ピーポ、ピーポという救急車の音が車内にも響いた。いつも眺めている救急車に自分が患者として乗っていることが不思議に思えた。夢の中にいるようだった。               

(つづく)


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