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振り返れば楽しきかな我が人生 人生イメージ


結婚恋愛「マイとボク」 -11-
By 千里一歩さん

映画ふざけろ
幻の映画ポスター。J氏の名はこの中にある。B21スペシャルのヒロミは真ん中。
M銀行は個性的な人材が多い。それだけに親しみがある。担当者とは個人的にも親しくなる。J氏の場合は異色中の異色だった。ボクに人事部健康管理課を紹介してくれ、レクレーションセンターの印刷物を受注させてくれた。

この時、M銀卓球事業団監督のS氏から「弟が銀座6丁目、資生堂本社前、丸源ビル地階でスナックを経営しています。よろしかったらご利用ください」という。彼の弟とは映画俳優の佐藤蛾次郎氏だ。「男はつらいよ」の寺男役や悪役をこなす名バイブイヤーである。夫人は元日劇のダンサーでアン・ルイスの「六本木心中」がすごく上手だ。そのご夫婦が店に出て接客もするし、蛾次郎氏自身やきそばをつくる名人。

従業員はタレント志望の若い女の子が数人いた。グループでいくと一人三千円くらいだからサラリーマン客が多かった。中には社長夫人や名士もいる。蛾次郎氏はボクやマイを歓待してくれた。ハワイから持ち帰ったアメリカの変わった裏ビデオもこっそり渡してくれた。「カネをもらうと罪になるので空テープと交換ですよ」と小声でいう。夫人が「何をしているの」というのでごまかしたことがある。

勉強家でボクを過大評価していたから中国の文学でわからない文字を教えて欲しいといわれ困ったことがある。すっかり親友になった。この頃、銀行員と銀座で食事し議論する機会が多かった。ボクは酒が飲めない。議論は得意だったから余計ボクを誘う銀行員がいた。「間違っても住友とは合併しない」というのが、彼らの意見だった。銀座は飛び切り高い店と、飛び切り安い店がある。蛾次郎氏の店は安いほうだった。
 
マイとスナック・パブに行く機会が次第に増えた。ボクが銀行員と夜つきあうようになると、いつの間にかマイも事務所に近いところにあるパブのマスターと友達になり、一人でも飲みに行くようになった。女の一人客は安くしてくれるし、ボクも、そのマスターと親しくなった。
 
担当のJ氏が広報課の次長になり、少しばかり仕事を受注すようになったが、ここはK編集プロダクションの社長が一人で、PR誌をつくっている。鉢合わせしないよう気配りしてもらい、J氏との付き合いは深くなった。J氏は「MOA」というPR誌を担当し制作や印刷は大手広告代理店が受注していた。

その表紙のモデルをしていたのが、まだ独身の阿木曜子さん(本名は福田)だった。J氏と阿木さんは次第に親密となり、二人は一緒にミューズ企画という芸能プロダクションをつくった。ボクも手伝ってくれという。

阿木さんとボクの二人で霞ヶ関ビル内にある大企業幹部へ営業したこともある。阿木さんはボクの事務所に妹さんを連れて何度か来たことがある。そのうち「整形美容に300万円使った。手術は海外でしている」と気さくに語りマイを唖然とさせたものだ。「お金があったら私も整形したい」という。
 
J氏は世田谷区の駒沢に立派な高級住宅を建て、奥さんと幼い娘と3人暮らしだった。奥さんは女優のように美しい。M銀行の女子行員だった。マイとボクが招待された時、それは幸せな家庭であった。ところが、J氏は本気で阿木さんに惚れ込み、M銀行を退職し本格的に六本木で芸能プロダクションをはじめた。再婚して共同経営しようと考えたのだ。このために住宅を慰謝料として美人の妻と離婚してしまった。
 
その頃、アメリカから宇崎というミュージシャンが帰ってきて。阿木さんは彼と結婚し2人の作詞作曲で「港のヨーコ横浜」をヒットさせた。それはJ氏と阿木さんの決別の歌であった。「あんた、あの子の何なのさ」というわけである。

その後、J氏は独身を続けタレント養成所を経営。古村比呂さんを発掘、彼女はNHK朝ドラマ「チョッちゃん」の主役に合格した。この時の本命は南野陽子さんだったがなぜか辞退して繰り上がったのである。古村さんには、北海道から母親を呼び、高級マンションに住まわせ、専用の車と運転手をつけ、生活費も然るべく出したからNHKからの月100万足らずのギャラでは足りず会社は赤字を出していた。

1年すぎて、これから儲かるという時になって彼女は俳優と恋愛、結婚してしまった。J氏の会社からは宣材など印刷物を受注して企画に参加していたから、ボクの関連会社ともいえた。J氏の設立した会社を買い取ることにもなったからである。
 
話は10数年後に飛ぶが、ボクはある投資家をJ氏に紹介した。J氏は映画をつくろうとしていた。まだ無名のB21スペシャルを主役に、高田純次、賀来千賀子などの出演で「ふざけろ」という題名の映画をつくった。そのために投資家から1億5000万円を引っぱり出した。ボクは、そんな巨額のカネが動いたことなど、まったく知らなかった。以後、連絡しても通じない。映画がどうなったかもわからない。たしか銀行強盗の話ということであったが。銀行員らしい発想だと笑う気にもならない。いま、どうしているのか。

さて銀行員にもいろんな人がいる。忘れられないのは、東大卒のN氏が担当の時、毎晩のように飲み屋へ誘われた。とにかく議論好きであった。ある時「GK会長には愛人がいる」と語った。上司の悪口を聞かされるのは困る。数日後から彼の様子がおかしくなった。ほとんどノイローゼだ。ようやく話をするとボクを冷ややかに見て「会長の愛人話を誰かにいわなかった?」という。何だ。ボクが経済記事を書いていると知って、いつ書かれるかも知れないと脅えたのだった。彼の自宅にも呼ばれたことがある。ボクは、そんな男ではないのにと、マイと笑った。その後、Nの神経症はひどくなり、社長室秘書になった時ある失敗をして営業に格下げされた。

この他、タバコも酒も飲まない真面目な男子行員が50歳で急死して、周りの同僚が一斉にタバコや酒を飲むようになった話もある。
(つづく)


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