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【 連載 】

歌舞伎を楽しむ!(5)

歌舞伎こぼれ話




 企画:林田プロジェクト
著述:(株)伝統文化放送(歌舞伎チャンネル)代表取締役社長
元歌舞伎座支配人
金田栄一様
イヤホンガイド
歌舞伎を面白くする名脇役「イヤホンガイド」

 歌舞伎は「難しい」「わからない」とお考えの方も多いことでしょう。さらに「眠い」「のろい」「つまらない」といわれたら立つ瀬がありません。お蔭様で近頃は観劇人口も増え、人気俳優の活躍、さらに思い切った企画の数々などで話題も豊富ですが、私が歌舞伎の仕事に携わり始めた昭和40〜50年代は、前述のごとき声も時折り聞こえていました。当時は歌舞伎を始め多くの商業演劇が団体に依存していましたが、それでもそれなりに活況を呈しており、とはいえ歌舞伎は他のお芝居と違い、まだまだお客様には敷居が高く、見てもよくわからない、そのうち早めに席を立つ方々も・・・・。

 そこにひとつの革命を起したのが「イヤホンガイド」。これを考え出したのは皮肉にも私共のスタッフではなく、ある新聞社の社員、歌舞伎は見たこともなければ興味もないという御仁なのですから不思議ですが、またそういう方だからこそ発案できたのでしょう。

 それまで歌舞伎の解説といえば劇場で売っている筋書(すじがき=プログラム)のほかは教科書のごとき解説書ばかり、ところが「イヤホンガイド」は、お芝居の進行に合わせて、耳元でこんな風にささやいてくれます。『いま手に持っている箱は、実はこういうもので、そこに出てきた怪しい風体の男が、後に重要な役割を果たします。さて・・・・』といった具合にどんどん興味を引き出しながら豆知識を教えてくれます。

 このイヤホンガイドが歌舞伎座でスタートしたのは昭和50年、外部スタッフと共に劇場側の担当者として付いたのが、配属になってまだ2年目の私でした。この企画は確かに画期的ではありますが、必ずしもすぐに受け入れられたわけではなく、イヤホンから音が漏れるといった苦情も多く、何よりも、そんなものは要らないという観客が主流、また俳優も解説内容にどこか疑心暗鬼の様子。ようやく軌道に乗り多くの人に認められてきたのは10年後の昭和60年あたりからでしょう。次第に歌舞伎の面白さが見直され、やがて平成に入ると「歌舞伎ブーム」という言葉も生まれ、歌舞伎が「古典芸能」から脱皮して「現代のエンターテイメント」として不動の人気を誇れるようになりましたが、これには俳優や興行サイドの努力と同時にイヤホンガイドの果たした役割も評価したいと思っています。

 私が思うには、歌舞伎はカプセルに乗ってやってきた江戸時代そのもの。昔の日本人が持っていた洒落の精神、色彩感覚、奇想天外なアイディア、そのすべてが歌舞伎の中に詰っています。だから面白いのは当たり前です。ところが明治以降、すべてが欧風化する中で、歌舞伎は自ずとカプセルに入って独自の道を選んだのではないでしょうか。カプセルに入っていたから中身が大きく変質しなかった、そのかわり中身がよく見えないので「むずかしい」「わからない」といわれ続けて大正、昭和と過ごしてきたのではないかと思っています。それを開いて見せてくれたのがまさしくイヤホンガイド、中身がわかってくると『なんだ面白いじゃないか』と新鮮に感じた人達がどんどん増えてきました。

 長いお話、複雑なお話、その全部がわかる必要はありません、ちょっとした知識やヒントを得るだけで歌舞伎は本当に面白く見られるはずです。

(つづく)


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