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【 連載 】

歌舞伎を楽しむ!(15)

歌舞伎こぼれ話




 企画:林田プロジェクト
著述:(株)伝統文化放送(歌舞伎チャンネル)代表取締役社長
歌舞伎座舞台() 代表取締役社長
金田栄一様
歌舞伎座


掛け声と屋号

 歌舞伎の上演中、客席からしばしば大きな掛け声が掛かり、芝居を盛り上げてくれます。出演している俳優や歌舞伎を見慣れている観客にとっては至極当たり前の光景ですが、歌舞伎初心者はいきなりの大声にちょっとびっくりし、特に外国の方々にとってはなかなか馴染みにくいようです。実際、掛け声が掛かると同時に『何事が起こったのか!?』と驚きの表情で振り返る外国人観客の様子は、私も随分目にしました。

 掛け声の内容は、ほとんどが俳優の『屋号』です。歌舞伎俳優にはすべて屋号が付いていますが、これは「人」や「家」にではなく、「名前」に付いています。例えば『成駒屋』だった中村鴈治郎が坂田藤十郎を襲名して『山城屋』に変わりましたし、中村雀右衛門(『京屋』)の長男・大谷友右衛門は『明石屋』、二男の中村芝雀は父と同じく『京屋』というわけです。

 ところでこの『屋号』とは何でしょう? これは歌舞伎ばかりでなく、昔からあるいろいろな商店が屋号を付けているのと同様、ある種の代名詞として存在しています。一説では、江戸時代の役者は「士農工商」よりもっと身分の低い地位に居たため、せめて「商」と肩を並べようということだといわれています。

 その屋号ひとつひとつの由来は必ずしも定かではありませんが、最も有名なところでは、初代市川團十郎が熱心に成田不動を信仰し、お蔭でなかなか授からなかった子宝にも恵まれ、やがて『成田屋』と名乗ることとなり、ここから屋号を付ける習慣が始まった・・・・というのがほぼ定説のようです。他には出身地に因むものもあり、『紀伊国屋』『加賀屋』『三河屋』などはおそらくそれでしょう。

 また屋号は掛け声ばかりでなく、芝居の幕内で大変便利に使われています。親しみと敬称の要素を兼ね備えていて、俳優同士やスタッフなど、名前で呼び合うことも多いですが、屋号も日常頻繁に使われています。例えば『音羽屋さん(=菊五郎)』『高麗屋さん(=幸四郎)』『中村屋さん(=勘三郎)』といった具合です。

 一方、歌舞伎俳優は苗字で呼ばれるとちょっと困ってしまいます。歌舞伎座の楽屋で『中村さん!』と声を掛けたら、さて何人が『ハイ』と応えるでしょう。以前は歌舞伎俳優がテレビのクイズ番組やトーク番組に出ると、司会者から『中村さん』『片岡さん』と呼ばれ、くすぐったそうな表情で受け応えしていたこともありましたが、このごろはようやく名前の方で呼ぶことが定着してきました。ですから歌舞伎俳優を『吉右衛門さん』『仁左衛門さん』と名前で呼んでも決して失礼にはあたりませんし、逆に『先生』『師匠』という言い方は歌舞伎俳優にはあまり馴染みませんので、そこまでのお気遣いはなさらぬ方が良いようです。

(つづく)


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