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水野晴郎さんは現代の黙阿弥?
映画評論家・水野晴郎さんの訃報を知ったのは出張先の名古屋、帰りのホームで見かけた夕刊紙の見出しでした。先生は映画ばかりでなく歌舞伎が大好きで、日頃から歌舞伎座にも足繁く通っておられました。私も劇場勤務の頃からですので結構お付き合いが古く、また「歌舞伎チャンネル」の視聴者でもありましたので、時折り私の会社にもお越し頂き、いつもあの笑顔を見せてくれました。
「水野晴郎」といえばおなじみの名せりふ“いや〜 映画って本当にいいもんですね!”がまず思い浮かびますが、一方で大変な“題名の達人”としても知られています。洋画配給会社の宣伝部長時代に作った傑作の数々といえば、ちょうど私たちの年代にはおなじみのものばかりで、ビートルズの『A Heard Days Night』が『ビートルズがやって来るヤア!ヤア!ヤア!』に大化けし、『The Longest Day』は『史上最大の作戦』に、『From Russia with Love』が『007危機一発』。『危機一髪』ではなく『一発』になるところがいかにも水野流。『Midnight Cowboy』も『真夜中のカウボーイ』とはならずに『カーボーイ』(実際この主人公はカウボーイ姿ですが、乗っているのは牛や馬ではなく車、当時のニューシネマの代表作)、また『Chitty Chitty Bang Bang』は、『チティ・チティ・バン・バン』では日本人が発音しにくいので『チキ・チキ・バン・バン』になりました。
実は歌舞伎の方にはもっとすごい題名の達人がいます。そもそも歌舞伎の題名(外題=げだい)は五文字・七文字で難しい漢字が当てられ、そこにまた歌舞伎ならではの奥の深さがありますが、中でも飛び切り面白い題名をつけた達人といえばやはり河竹黙阿弥でしょう。
以前にもこのページでご紹介しましたように『白浪五人男』は『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』ですが、他にも『吉様参由縁音信(きちさままいるゆかりのおとずれ)』や『勧善懲悪覗機関(かんぜんちょうあくのぞきからくり)』、ちょっと風変わりなところでは西郷隆盛の西南戦争を題材とした『西南雲晴朝東風(おきげのくもはらうあさごち)』、さらにいかにも文明開化の時代を表わしたような『街明治世賑(ちまたあかるきじせいのにぎわい)』『優咲開花演説会(かえりざきかいかのよがたり)』といったものも見受けられます。
こういったいかにも判じ物のような歌舞伎の外題を、そのまま映画につけるというわけにはいきませんが、水野晴郎流の“ちょっとおかしな題名たち”を眺めていますと、その底辺にはこんな歌舞伎の手法も流れているのではないかと思われます。先生も心のどこかで“現代版 黙阿弥”を気取っていたのかもしれません。
心よりご冥福をお祈りいたします。
(つづく) |