 於岩稲荷
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『四谷怪談』と“お参り”
5月は歌舞伎座と同時に新橋演舞場でも歌舞伎を上演していますが、「夜の部」はおなじみ『東海道四谷怪談』の通し上演で、中村吉右衛門、中村福助、市川段四郎といった面々が顔を揃えています。『四谷怪談』といえば怪談物の中で最も有名な演目ですが、歌舞伎で上演されるこのお芝居をじっくり見ますと、お化けが出てきて怖いお話というよりも、人間の深部が細かく描かれ、本当に怖いのはお化けではなく実は人間・・・・作者の鶴屋南北はそのあたりをきちんと描いています。
また歌舞伎ばかりでなく、このお芝居は映画やドラマにもしばしば取り上げられますが、その際、必ずしなければならないのが「お参り」。この舞台となっている四谷左門町には、有名な「於岩稲荷(おいわいなり)」があり、出演者やスタッフは事前に必ず詣でるのがきまりです。地下鉄丸の内線「四谷三丁目」から歩いて数分、外苑東通りの一本裏にあたる狭い通りに「田宮神社」と「陽運寺」があり、そのどちらにも「於岩稲荷」の名が冠されています。神社とお寺、その両方に必ずお参りしますが、さらに巣鴨の「妙行寺」にはお岩の墓がありますのでこちらにもお参りをすれば完璧?!とはいえ、きちんとお参りを済ませたといっても、相変わらず出演者やスタッフが奇妙な病気やトラブルに巻き込まれたり、舞台で事故といった逸話は毎度のようについて廻るようです。
よく聞かれる話では、目が腫れたり足を怪我したりという類いですが、その他にも舞台で停電があったとか、エレベーターが止ったとか、各々それなりの原因があるのでしょうが、つい結び付けたくなるほどタイミングが一致するようです。実は今回の上演に因み出演者がお参りに行きましたが、その取材に行った当社の撮影スタッフが、その数日後から目が腫れ、ついに熱を出して会社を休む羽目になるとは・・・・やはり偶然ですよね?
また歌舞伎の大道具や小道具には、実によく考えられた仕掛けがいろいろとありますが、特にこの演目ではそういった仕掛けが随所に使われ、しかも暗い場面が多いため操作や手順の難しさも一因といわれています。燃え尽きた提灯からお岩が現れる『提灯抜け』、仏壇の中に人が引き込まれる『仏壇返し』、戸板の裏表に人が括りつけられた『戸板返し』、赤子が一瞬のうちにお地蔵様になってしまう『抱き子の仕掛け』など、どれも江戸時代から伝わるアイディアですが、近年のマジックやイリュージョンの原型ともいえる“タネも仕掛けもある”様々な工夫です。百聞は一見にしかず、是非一度、この機会に本物の『四谷怪談』の舞台をご覧になってください。
(つづく) |