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「煙草」「煙管」に「火の用心」
歌舞伎のポスターやチラシには「4月2日初日⇒26日千穐楽」という風に公演日が書かれています。相撲でも最終日のことを「千秋楽」と呼びますが、歌舞伎では通常「秋」の字ではなく「穐」が使われています。なぜかというと、その昔江戸の町はしばしば大火に見舞われ、そのたびに芝居小屋も焼失を繰り返したという歴史から、同じ「秋」でも「火」を使わず、そこへめでたい「亀」の字を入れた「穐」が使われるようになったといわれています。
昔の浮世絵にも芝居小屋風景がよく登場しますが、眺めてみると桟敷の席に綺麗どころをはべらせて、酒を酌み交わしたり煙草を吸う様子などが描かれ、中には七輪を持ち込んで鍋で煮炊きする不届きな連中もいたようですから火の用心などはどこ吹く風、日本人の危機管理の甘さは今に始まったことではないのがよくわかります。現在では劇場内は当然禁煙、それどころか、喫煙場所は玄関を出て吹きっさらしの一角というところも珍しくありませんから、愛煙家受難の時代はまだまだ続きそうです(私は吸いませんからかまいませんが・・・・)。
ところで観客に煙草を吸うなといっておきながら、舞台の上で役者が煙草を吸う場面というのは案外多いものです。当然舞台上も火気厳禁ですが、かといってその通り守っていたのではこれまたお芝居にならず、おなじみの「弁天小僧」や「切られ与三」、それに「忠臣蔵六段目」の勘平などは煙管を手にしないと形にもストーリーにもなりません。こんな場面を上演するには、各劇場は必ず所轄の消防署へ申請を出し、その際、使用する道具の簡単な図を添付しますが、どんなものが使われているか、普段あまり舞台上のものを覗き込むことのない私たちにとっては、こういった機会に案外なるほどと思うことがあります。煙草盆の中には瀬戸物の容器、灰を敷いた上に乗っているのは火種の香炭(こうだん)、つまりお焼香のときに使うあの固形のものですね。これでおもむろに火を付けるわけです。脇には灰落としに使う竹製の灰吹き、これも中には水が張ってありちゃんと火の用心は心掛けています。
また「煙管」という字、これを「きせる」と読めるのは100人中何人くらいでしょう。日常で使う人はほとんどいませんし、時代劇などで形だけは何となく知っている程度でしょうね。余談ですが、電車もICカードの普及で「キセル乗車」がほとんど出来なくなり、言葉自体そろそろ死語になってきそうです。
俳優さんたちもさすがに普段煙管を使うことはありませんが、やはり手に馴染んでいないと、いざ芝居というときに借り物のようになってしまいますので、吸わないまでも出来るだけ手にしながら指先で廻してみたりと、日頃の心掛けはやはり大切のようです。
(つづく) |